3年後、あなたはどんな車に乗っていますか?

この本の舞台は今から3年後の2029年。レベル5の完全自動運転車が普及している世界です。

物語は自動運転のアルゴリズム開発者坂本の乗る車がカージャックされ、意識を失った坂本が目を覚ますところから始まります。

ある条件を逸脱すると爆発するシステムが仕掛けられ、走る凶器となった車は坂本とイスラム語で「義務と責任ある者」を意味するムカッラフと名乗る犯人を乗せて、日本国民が配信で見守るなか首都高を爆走することに。

ムカッラフは坂本が殺人者であると証明すると宣言し彼を拘束し、尋問にかけます。

車が爆発すれば、犯人であるムカッラフも一緒に木っ端みじんです。それどころか東京の街にも被害が及びます。

一体犯人の目的は何なのか。

ハラハラドキドキのエキサイティングな物語なんですが、実はこの本が出た2022年ひとりのスタッフが日本SF大賞優秀賞を受賞した本作を興奮気味におすすめしていてビーンズの本好きのスタッフの間で話題になっていました。

私もおすすめされたのですが、「でもSFでしょ」となかなか手が伸びませんでした。

理系の教科が大の苦手だった私はSF小説は読みだすのにも、読みだしてからも時間がかかります。SFのSはサイエンスのSと思うだけで気が遠のく感じになってしまうのです。

ですが、今回北陸文庫大賞にノミネートされたのを機にやっと手を出してみてその面白さに驚愕しました。

SFへの苦手意識もどこかに吹き飛んでしまって、次々と展開される謎に前のめりになりながらページをめくっていました。

難解なIT用語や技術の説明も、IT音痴の刑事と動画配信会社のマネージャーのコンビが事件を捜査する中で解説してくれるので自然と頭に入ってきます。


そして車の内側と外側、それぞれで動き出した事件解決への道筋は思わぬ方向へ動き出します。

果たして犯人をどうやってとめられるのか、車は爆発から逃れられるのか。最後まで気を抜けない展開になっています。

完全自動運転車は2026年の現実社会でも実用化にむけて取り組まれています。この物語は決して私たちに無関係ではなく、今後の未来に起こりうるだろう問題をたくさん含んでいることに気づくと思います。

小説として理想と興奮が詰め込まれた作品です。難しいことはありません。カージャックされた車が首都高を爆走します。

2029年が過去になる前にぜひ読んでもらいたい一冊です。

サーキット・スイッチャー
安野貴博
早川書房
1056円(税込み)