呉勝浩の『爆弾』は、ただのクライム・サスペンスではない。東京を震撼させる「連続爆破事件の犯人」、あるいは「爆弾の在処を知る男」として取り調べをうける「スズキタゴサク」と、彼を担当する刑事の、凄まじい「知」の真剣勝負を描いた作品だ。
取調室という閉ざされた空間で、スズキの口から次々と語られるのは、まるでゲームのルールやヒントのような不可解な予言と挑発。すべてを失ったかのように振る舞うこの男が、なぜ、そして何のために、こんな巨大な犯罪を仕組んだのか?
物語が進むにつれて、爆弾の危機が迫る時間的緊迫感と、スズキの心理を読み解く知的興奮が波のように押し寄せ、ページをめくる手が止まらなくなる。
読者は刑事と同じ視点に立ち、スズキのたった一つの言葉、仕草、その裏に隠された真意は何なのかを必死に推理することになるだろう。
そして最後に明かされる、彼の「爆弾」に込められたメッセージ。それは、単なる悪意や復讐では括れない、現代社会の見えない痛みを鋭く抉り出す。読了後、私たちはこの物語が提示した恐ろしい問いについて、深く考えさせられるはずだ。
「でも爆発したって別によくないですか?」
呉勝浩の『爆弾』は、ただのクライム・サスペンスではない。読む者の常識を粉々に吹き飛ばす力を持った危険物だ。