かたばみはクローバーに似た葉をもつ雑草ですが繁殖力が高く、一度根付くと絶やすことが困難であることが「(家が)絶えない」に通じることから、武家の間では、家運隆盛・子孫繁栄の縁起担ぎとして家紋の図案として用いられた植物です。
そんな植物の名がタイトルにつけられたこの小説は血縁関係にない人々が家族になってゆく物語です。主人公の山岡悌子はオリンピックを目指すほど将来を嘱望されたやり投げの選手でしたがケガを理由に引退し国民学校の代用教員として働きだします。
野球選手の幼馴染と結婚するつもりでしたが、まったくのひとりよがりで幼馴染は別の女性と結婚し出征してしまいます。
腰掛のつもりだった教師の仕事に向き合い、戦中という困難な時代のなかでも生徒のことをおもう悌子の不器用で一生懸命な姿は読んでいて好感をもたずにはいられません。
悌子の夫となる中津川権蔵は悌子の下宿先の総菜屋の奥さんの兄で軍人の家系に生まれながらも身体が弱く兵役を免除され、ラジオの部品の運搬の仕事を手伝い日々をつないでいます。
どこか人生を諦めたような権蔵と活力あふれた悌子はまるで月と太陽のように正反対な二人ですが、なりゆきで夫婦としてひとつ屋根の下で生きてゆくことになります。
恋愛感情もないふたりをつなぐ役割なのが息子の清太ですが、清太もどちらとも血のつながりはありません。清太は悌子の幼馴染と結婚相手の間にうまれた子どもで、幼馴染の戦死により再婚の邪魔になると悌子に預けられるのです。一度腹をくくると強い悌子と違って、権蔵は清太の本当の父親は悌子の初恋相手しかも野球界のスター選手ということにコンプレックスを刺激され自分が父親になっていいのかと逃げ腰です。そんな一見ばらばらになりそうな3人が血のつながりなど関係なく本当の家族になっていく様子が泣きたくなくくらい愛おしく心に染みるのです。
戦争によってこんなはずじゃなかったという人生を過ごした人は大勢いたと思います。
この小説に出てくる人たちもそうです。
戦争を描いた物語はつらいから読めない、そう思っているひとにはぜひおすすめしたいです。日常が生き生きと描かれ、わたしはその描写に泣いたり笑ったりしました。その明るさに救われました。同時に平和のありがたみも感じたのです。
かたばみの花言葉は「喜び」「輝く心」「母の優しさ」「あなたと共に」
まさしくこの小説をあらわす言葉でもあります。