廃刀令後の明治11年、突如開催された「蟲毒」という名のバトルロワイアル。集まった292人の強者たちは、それぞれに与えられた木札を奪い合い、京都から東京を目指す。前三巻『イクサガミ 天』『地』『人』での数多の死闘、出会い、別れを経て、最終巻『神』ではまさに鬼神のごとき猛者たちの神技の応酬が繰り広げられます。

主人公の嵯峨愁二郎は、「蟲毒」参加者の少女・双葉を守りながら最後の一人を目指す、古剣術「京八流」の使い手。この流派には八つの奥義があり、愁二郎と兄弟たち8人が一つずつを継承しています。しかし、「京八流」は一子相伝。決められた日に兄弟同士で戦い奥義を奪い合って、最後のひとりを決めるという因習が。いわば『NARUTO』の霧隠れ、『キングダム』の蚩尤と同じシステムです。愁二郎はそれを嫌って逃げ出した過去を持っています。兄弟たちはいずれ劣らぬ実力者ぞろい。彼らもそれぞれの思いを胸に「蟲毒」に参加しているのでした。

『イクサガミ』の魅力は一言では語れません。「蟲毒」のルールや「1人1能力」的な設定の妙。バトルや駆け引きのエンターテイメント性。実在した人物が登場し虚実が入り混じった物語性。幾本もの経糸に、先が気になる展開。まるで『るろうに剣心』や『甲賀忍法帖』、『無限の住人』などの良い部位を選りすぐって旨味と深みを加えガッツリ系の料理に仕立てたような、「もうそれ絶対うまいヤツやん」的な熱い物語です。

数ある本作の魅力の中でも、特に注目したいのはキャラクター造形、群像劇としての側面です。
東京までたどり着いた最後の1人に大金が与えられる「蟲毒」ですが、参加者292人の動機は様々。単に金に目がくらんだ者、大切な人を救うために賞金を得ようとする者。強者との戦いを求める者、死に場所を探すもの。そのどれとも違う不気味な理由を抱える者...
敵も味方も一人ひとりが魅力的で、それぞれが信念や矜持、あるいは欲望や本能に殉じていきます。そして各々の過去、背景、戦う理由が詳細に描かれ、「推しが必ず見つかる物語」を形作っているのです。
ちなみに私の推しは英国人のギルバート。騎士道精神丸出しながらアウトロー味もあり、サーベルと手斧のパワープレイが持ち味です。実写化にあたっては、個人的にはぜひイギリス人俳優のショーン・ビーン氏に演じていただきたいと思っておりましたが...

「蟲毒」の結末、ゲーム主催者たちの顛末、兄弟たちとの決着、猛者たちの最期、仲間たちの行く末、「京八流」に隠された謎。それらすべてが明らかとなる『イクサガミ 神』、誠心を込めておすすめします。

イクサガミ 神
今村翔吾
講談社
1,001円(税込)