一つの球を投げては打って点を取り合い勝負する。
そこに勝者と敗者が生まれ、歓喜と悲哀の涙が流れる。
うだるような暑さの中、大量の汗をかきながら必死にプレイする球児たちの姿を見て、感動する。
地球温暖化が叫ばれ、セミの大音声と隙間に聞こえる風鈴の音が原風景になりつつある現代。
エアコンの効いた部屋の中、テレビのこちら側でその姿を見て、夏の真ん中にいる気分になる。
甲子園の季節がきた。
しかし、汗をかいているのは球児たちばかりではない。
勝敗を決める審判団、球児たちを指揮する監督やコーチ、自分たちの学校を鼓舞する応援団やブラスバンド。
大粒の汗を流しながらグラウンドでプレイする球児たちの姿を見て感動するのは、積み重ねてきた研鑽と見えない歴史の積み重ねを感じるからだ。
同じようなことは、高校球児を見守るものたちにも言えるのではないだろうか。
「アルプス席の母」は甲子園に出場することを目標に野球に打ち込む息子を支える母の物語だ。
甲子園に出場するために地元・神奈川を離れて、大阪の新興校に進学を決めた息子を待っていたのは慣れない環境への適応と怪我との闘い。
そして、息子についてきた母にも高校野球の悪しき慣習が待ち受けていた。
華やかな甲子園の舞台の裏側で起きているドラマの連続。大人たちも子供のために苦悩と葛藤の日々の中、闘ってきていることを感じられるはずだ。
高校野球の見方が変わる。
これからは炎天下で懸命にプレイする球児たちだけでなく、声を枯らして応援し見守るものたちの姿にも歴史ありと思いを馳せることになるだろう。