突然ですが、「北極」と聞いてあなたは何を思い浮かべますか?

私は、恥ずかしながら「ホッキョクグマ」「オーロラ」「めっちゃ寒い」といったぼんやりとした単語しか浮かびませんでした。

本や映画などでたびたび登場する南極大陸には昭和基地という南極観測隊の観測拠点があります。では北極では?北極は大陸がないのにどうやって観測できるの?

実はあるのです。

北極観測の世界的拠点であるニーオルスンに観測技術者として長期滞在したはじめての日本人でもある松下隼士さんの『オーロラの下、北極で働く』は厳しくも美しい自然や動植物の写真とともに松下さんのリアルな極北での生活が綴られています。

ニーオルスンはノルウェースヴァールバル諸島スピッツベルゲン島にある。民間人が定住する地としては世界最北に位置します。かつては炭鉱で栄えた町が現在はサイエンスの町として世界中から研究者が集まっています。

ちなみに観測技術者とは研究者のかわりにニーオルスンに滞在し研究のサポートをするいわゆるなんでも屋。観測支援だけでなく施設の保守整備や広報活動など業務は多岐にわたります。なんでも屋というよりなんでもできるひとという印象です。

研究者でも銃を携帯しなければいけない過酷な自然環境の地でひとり業務にいそしむ姿はSFっぽくもあり、「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を読んだばかりのにわかSF小説ファンには想像を掻き立てられるものがありました。

また、ニーオルスンでは様々な国の研究者が同じ食堂を使います。同じ釜の飯を喰うということばもあるように、松下さんも食事やイベントを通して他国の滞在者と親交を深めていきます。ひととひととの交流の温かさを知ることができるのもこの本の魅力のひとつです。


本や映画の題材になることも多い昭和基地と違って北欧の人でさえも知らないニーオルスンの知られざる一面をこの本を通して知ることができます。

そして 世界にはまだまだ私が知らないことが沢山あることに改めて感動すら覚えるのです。



金沢ビーンズでは松下さんがニーオルスンで撮った壮大で迫力のある自然や多種多様な動植物の写真のパネル展示が7・5よりはじまります。

厳しくも美しい極北の世界をぜひこの機会にご堪能ください。

 

オーロラの下、北極で働く
松下 隼士
雷鳥社
1870円(税込)