村山由佳著「PRAZE」は直木賞を獲りたくてたまらない女性作家の話だ。

ライトノベルの新人賞を受賞して作家となった天羽カインは一般文芸デビューした作品で本屋大賞を受賞。サイン会はいつも満員御礼、本を出せばベストセラー、映像化も多く人気作家としての地位を確立している。だけど、直木賞が獲れない。候補には上がるが選考委員からの評価は厳しく、その度自尊心が削られてゆく。

自分を正しく評価しない文壇、夫、世間。

カインの「認めさせたい」という執念は自分自身も含め関わる人々を狂わせることになる。

「認められたい」という欲求はけして作家だけではない。とくに現代において承認欲求から無縁の人間などいるのだろうか。

ときにひとはこの欲求のために一線を超えてしまうことまである。


カインも見苦しいまでに直木賞への執着を見せる。しかしながら彼女はけして自分を曲げてまで賞を欲しいわけではないのだ。正しく評価されたい、その一心なのだ。傍若無人にふるまう彼女を嫌いになれないのはここなのだ。



出版業界の内側をこれだけ生々しく描いた作品はほかにはないかもしれない。読者には目新しく、作家にはリアルに映る。出版社の営業担当者は怖くて震えたと言っていた。

モデルになった作家や出版社を連想する楽しさもあって本が好きな人ならより楽しめる作品だ。

唯一本名で出てくるのが直木賞・芥川賞を運営しているのが文藝春秋で候補作の選考も文藝春秋の編集が担当している。作品にはその選考の過程も描かれていて、そのプレッシャーにも納得するものがあった。いままで運営側の利で文藝春秋の作品ばかり選ばれてると思っていたことを深く反省した。


多くの出版トリビアも楽しいが、一番はやはり物語の面白さだ。カイン、編集者それぞれの目線で語られるストーリーはもつれる糸のごとし。いくつもの緊張をはらんで進んでゆく。読む側はもうはらはらするしかない。村山由佳が引いたレールはカインと私たち読者をつれて一体どこに行きつくのか、それは読んでのお楽しみである。


PRIZE
村山由佳
文藝春秋
2200円(税込)