2023年もあとわずかというある日に突然入ってきたあるニュースが出版界隈をざわつかせました。

 

「百年の孤独」が文庫化する!

 

なぜ、一冊の本の文庫化がこれだけ大きな衝撃を与えたのか。

それは「百年の孤独」はウンベルト・エーコーの「薔薇の名前」とともに長年文庫化されることがなく、そのため文庫化されれば世界が滅ぶとまことしやかに噂されていたからです。

 

「百年の孤独」はコロンビアの作家ガブリエル・マルシア=ガルケスによって1967年に出版されるやいなや世界的ベストセラーになり、ラテンアメリカ文学ブームの先駆けになった作品です。日本では1972年に翻訳が発売され、半世紀のあいだ文庫化されることはありませんでした。私も文庫版のお問い合わせを何件も受けたことがあります。

 

では「百年の孤独」とはどんな作品なのか。簡単にあらすじをご紹介します。

血縁関係にある男女の結婚から生じた殺人によって夫婦は故郷を逃れ、新天地を建設します。架空の街マコンドを舞台に孤独を運命づけられたブエンディア一族の繫栄と滅亡の100年間を綴った壮大な物語です。

この物語の難解な点として1007世代を描いているために非常に登場人物が多い、さらにその人物たちが同じ名前を持っているところが挙げられます。しかしながらその難解な点が同時にこの物語を最高傑作たらしめている要素になっていると思います。

実際、マルシア=ガルケスが1982年にノーベル文学賞を受賞したのはこの作品の評価が大きかったと言われています。

 

作品を読む前に知っておくといいのが「マジックリアリズム(魔術的リアリズム)」という表現技法です。

ざっくりいうと非日常を日常として描く表現技法のことで、「百年の孤独」はマジックリアリズムの代表格でもあり、文学界におけるマジックリアリズムブームは「百年の孤独」から始まったと言っても過言ではありません。

日本でも安倍公房、大江健三郎、中上健次といった大御所から近年では村上春樹、阿部和重、森見登美彦など多くの作家がこの技法を取り入れています。(ちなみに私のおすすめは石井遊佳「百年泥」)

当たり前のようにに非現実が日常として描かれるので戸惑うかもしれません。でも物語に引き込まれる没入感や中毒性が高いのもマジックリアリズムの特徴ではないかとも思うのです。


ガルシア=マルケスの死後10年という節目の2024年、「百年の孤独」が文庫化、さらに来年にはNetfilixでドラマ化されるそうで、「百年の孤独」への注目が続きます。世界を滅ぼすかもしれないほどのパワーを持った作品です。文庫発売は2024626日。のこり一ヶ月、待てない方には単行本もあります。

百年の孤独
ガブリエル・ガルシア=マルケス
新潮社
3,520円(税込)