自費出版のエッセイ「わたしを空腹にしないほうがいい」が異例のヒットとなり、初小説「氷柱の声」が芥川賞候補となるなど今注目度の上がり続ける歌人くどうれいん氏によるエッセイ第2段。

 

初著書「わたしを空腹にしないほうがいい」では食にまつわるエピソード集でしたが、今作は友人や恋人、その場限りの誰かなど、かかわってきた「人」とのやり取りをテーマにしています。

 

取り立てて特別というほどではない日々の出来事に自身がどう感じたか、言葉にしにくいような感情の機微を取り逃すことなく的確な表現で書き綴られた日常はまるで読み手の体験かのようにすっと体になじみます。くどう氏の10代の頃はひたすら日記ばかり書いていたという経験と、歌人としての感性がいかんなく発揮された文章をぜひ堪能してください。

 

また、登場する人物たちも個性的で魅力的な面々ばかり。暗号で告白してきたスズキ君、突然「桃が食べたい」とダイレクトメッセージを送ってきた知らない人、生徒たちに自分を名人と呼ばせる教師など、みずから友達は多くないと語る割には、彼女は随分と愉快な人たちに囲まれているなと感じてしまいます。

 

ですがそれもやはり彼女自身の感性のなせる業かもしれません。くどう氏の身に起こるありふれたことや、かかわってきた人々をみんな特別に感じ、うまく言葉として切り取って受け入れているからこそ、彼女の人生が魅力あるものとして私たちの心に映るのでしょう。

 

私も毎日の「特別」を見落とさないように過ごしていきたいものです。

 

うたうおばけ
くどうれいん/著
講談社
682円(税込)