28年前の警察庁長官狙撃事件。
叔父が残した銃弾の意味するものとは――

今回ご紹介するのは、石川県在住の小説家・城山真一の新刊、『狙撃手の祈り』。
『看守の流儀』で新たな境地を開いた城山氏が、かつてないスケールで描いたサスペンス・ミステリだ。

物語は28年前の警察庁長官狙撃事件の現場から始まる。
護衛の懸命な働きもむなしく、警察組織の長が凶弾に倒れた未曽有の大事件だった。ある新興宗教団体が関与を疑われたものの、犯人不明のまま公訴時効を迎えることになる。

時は流れ、現代の東京。楽器店を営む青井圭一は、妻・沙月との間に生まれた不協和音に戸惑っていた。雑誌記者である沙月が、青井の友人であるミュージシャンの不倫記事をスクープしたのだ。
そんな中、沙月は離婚届を残し、消息を絶ってしまう。行方の手がかりを探す青井だったが、沙月の部屋で驚くべきものを発見する。それは青井を育ててくれた叔父・友康の遺品で、その中には銃弾が含まれていた。
同時に、沙月が28年前の警察庁長官狙撃事件を追っていたことも判明。銃弾は事件に使われたものと同型のものだった。

そして物語の舞台は石川県七尾へ。
謎が新たな謎を呼ぶ中、青井の平凡だと思っていた日常が裏返っていく――

この小説は、言うまでもなく平成7年に実際に起きた警察庁長官狙撃事件が下敷きになっている。作者の城山氏は、当時から言い知れぬ違和感をこの事件に感じていたという。数多くの書籍や資料、様々な証言をあたり、物語として整合させた手腕もさることながら、善悪では断じきれない人間の心を描き切っている。
過去作品と同様、石川県が舞台になっているのも地元民としてはうれしい限りだ。

狙撃手の祈り
城山 真一/著
文藝春秋
1,870円(税込)