私がSF小説の傑作中の傑作を挙げるとするならば、真っ先に紹介する作品はこの『星を継ぐもの』です。

SF小説の金字塔として名高い本作は1980年の出版以来、日本で100刷以上を重ねている創元SF文庫最大のヒット作であり、続くシリーズ作『ガニメデの優しい巨人』『巨人たちの星』『内なる宇宙』とともに多くのSFファンを魅了してきました。そしてついにこの冬、長らく日本未翻訳だった最終巻「Mission to Minerva」が刊行されます。

数十年先の未来を舞台に、月面で発見された5万年前の人間の死体の謎に挑む科学者たちの物語。

見つかった死体はなぜそこにいたのか。彼は本当に地球人なのか、それとも--。

『星を継ぐもの』が傑作たる理由は、SFとしてだけでなくミステリーとしても非常に優れているからです。

冒頭で示されるとびっきりの謎で一気に引き込まれ、調査で判明していく事実を一つずつ積み重ねて真相に近づいていく様は知的興奮に満ちています。

中盤では木星の衛星ガニメデにおいて、月の死体をしのぐほどの大発見があり、物語はさらに混迷を極めることになります。

これだけ風呂敷を広げておきながら、最後にはすべての謎が1つの線につながるのようにすっきりと説明されるのだから称賛を浴びるのも当然と言えるでしょう。

主人公の天才科学者ハントと、ハントの自説を真っ向から否定し対立するダンチェッカー教授との関係性が、調査が進むほどに変化していくのも読みどころの一つ。

SFは小難しい、翻訳ものは読みにくい、何十年も前の本はちょっと・・・などなど、読むのを避ける理由ならいくつでも付けられるかもしれません。ですがそんな気持ちは一切無視してぜひ手に取ってみてください。

「面白い小説が読みたい」と思っているすべての人におすすめします。

星を継ぐもの
ジェイムズ・P・ホーガン/著 池央耿/訳
東京創元社
880円(税込)