あらゆる労働をAIに任せ、人間が"仕事"から解放された未来の物語。そのAIの一つであるコイオスが突如として不調をきたし、機能低下し始める。その原因究明のため人生で初めての仕事をすることになった内匠成果。コイオスとのカウンセリングを通じて彼女は一つの結論を出す。

「コイオスは労働により心を病んでおり、休暇が必要である」

働くことを知らない人間と、働くことしか知らないAIが共に「仕事」とは何かを探る。

 

人間とAIの交流を描いた作品。

働けなくなったAIの治療を、心理学に長けた人間が試みるストーリー。

序盤のカウンセリングの場面は物語に大きな変化もなくやや退屈ですが、内匠がコイオスに仕事を放棄することを勧めたシーンから大きく動き始めます。

そうして、コイオスと内匠は共に旅に出ることになるのですが、様々な経験を通して成長し、絆を深めていく友情物と各地を巡るロードムービーの要素を併せ持っています。はたして彼らは旅路の果てに何を見つけるのでしょうか。

 

また、本筋ではないですが、どうやらこの世界の人間たちは、毎日なにもする必要がなく、望めば何でも手に入るようで、そんな人生を甘んじて受け入れています。ですが、それはだれにも必要とされず、望みをかなえる喜びもないというとではないでしょうか。彼らは本当に幸せを感じているのだろうか、と妙な不安がよぎります。

AIが非常に身近となり、実際に人に代わって働き始めているまさに今、読んでおくべき物語かもしれません。

 

更に余談ですが巻末の解説は、本作のコイオスと内匠成果のやりとりを踏襲し、対話風ショートショートのような体裁を取っていますが、最後にちょっとしたオチがあります。ニヤリとできるものなのよければ読んでみてください。

タイタン
野崎まど/著
講談社
990円(税込)