インターネットやSNSの功罪についての議論というものは、現在までずっとされ続けている。
 中でもとりわけ大きな問題のひとつとされてきたのは、その匿名性ゆえに起こる、侮辱や罵倒といった他者への攻撃の事例である。こうした悪口の類は、当事者だけでなく周囲の人間も不快にさせる、どこまでも非生産的なものだ。

 しかし、本書では「つまらない悪口」こそが忌むべきものなのであって、「知性とユーモアを備えた悪口」は楽しい雰囲気を形成するものとして推奨されている。

 例えば、
「ペリクレス戦略ですね!」

 古代ギリシャにおいて、ペロポネソス戦争の際にペリクレスがとった戦略のことだという。現状維持で滅びていく人・計画を揶揄して使うらしい。
 これを言われて、まさか自分がディスられているとは露ほども思うはずがない。長期的な方針についての意思決定を称賛されているとさえ思うだろう。だが、言っている内容は「安易に守りに入って大失敗しましたね!」とほぼ同義だ。
 素晴らしい。日本人的な婉曲表現に優れた、実に趣深いフレーズだと思う。

 本書にはこのようなロジカル巧言が38フレーズ収録されている。いずれも教養なしではピンとこない、ウィットに富んだ悪口ばかりだ。
 ただし、「先祖が汚かった」(=酒強い自慢してくる人)や「シャノンの情報理論的には情報量ゼロ」(=当たり前の話を喋っちゃう人)などについては、注意して使用したい。何を言っているのかはさっぱり分からないが、悪口を言っていることだけは何となく伝わってしまうことは、想像に難くない。

教養悪口本
堀元 見 著
光文社
1,650円(税込)