『古典シリーズ』 『満願』を始めとした、人気ミステリー作家の一人である米澤穂信が選んだ次の舞台は、「戦国時代」であった。


 荒木摂津守村重・・。彼は、その「戦国時代」において、下剋上を体現した武将の一人であり、時の天下人・織田信長に反逆した人物としても名を知られている。

 物語は、その村重が今まさに、信長に対して謀反を起こした直後、居城である「有岡城」に立て篭もった時から幕を開ける。

 「有岡城」とは、城下町を城壁で取り囲む「総曲輪(そうくるわ)」式の城郭であり、当時から堅城として名を馳せていた。村重とその一党は、その「有岡城」を本拠地に、信長に対しての「籠城戦」を挑むことになった。

 開戦当初こそは「打倒信長」を旗印に意気軒昂であった荒木勢も、明日をも知れぬ戦いの中で、少しずつ不協和音を起こし始めてゆく。更に、城内で発生する不可解な出来事が、それぞれの心中に疑心暗鬼を生み、村重を悩ませてゆくことになる。

 そんな苦悩の渦中にある村重を、城内の一角に設えられた「土牢」から、不敵に眺め続けている男がいた。村重の謀反を思いとどまらせようと単身城に乗り込み、そのまま俘虜の身となった智謀の人、「黒田官兵衛」である。

 不本意ながら村重は、自ら捕えたはずの官兵衛の智謀を頼り、不可解な謎を解き明かしてゆくのだが・・。


 「籠城戦」という極限状態の最中、人々を疑心に飲み込む「謎」の数々に、城主・荒木村重の苦悩と、捕虜・黒田官兵衛の智謀がせめぎあう。


 第116回直木三十五賞・受賞作。




 


 

 

『黒牢城』
米澤穂信/著
KADOKAWA
1760円(税込)