ミヒャエル・エンデ」は、日本になじみの深い児童文学作家である。 そんな彼の代表作『モモ』が、日本で再び脚光を浴びている。


 映画化もされた『果てしない物語(ネバーエンディング・ストーリー)』と並んで、児童文学における名著として、世代を越えて長く読み継がれているのが、この『モモ』だ。

 

 『モモ』の物語は、3部によって構成されている。牧歌的な雰囲気を残しつつも、現代社会の縮図を思わせる変遷をしてゆく都市を舞台にして、主人公である少女・モモの活躍が描かれている。

 

 生活の中で自信をなくしてしまった人たちは、不思議なことに、モモと会話をするうちに、その自信を取り戻していく。なにか特別な力を持つわけではないモモだが、そんな人々に寄りそう優しさを持ち、それが、人々の心に活気を与えてくれるのである。

 

 『モモ』を語る上で欠かせないのは『時間泥棒』との対決である。

 

「時間を貯蓄する=無駄な時間をなくす」ことによって「人生を2倍にできる」という誘い文句で、『時間泥棒』は、都市の大人たちからどんどんと『時間』を奪っていく。牧歌的な雰囲気を持っていた都市は、またたく間に、余裕のないせかせかした窮屈な社会になってしまうのである。

それに気がついたモモは、『時間泥棒』のたくらみから大人たちを守るために、冒険を始めるのだが・・。

 

 ・・このように、『モモ』の世界観は、「高度な経済社会へ発展していく世界」を、寓意的に表している。

 

日本における『モモ』の発行部数が、地元のドイツに次いで世界第2位にあるというのは、この『モモ』のストーリーが、戦後の何もないところから高度な発展を遂げてきた日本と、そのめまぐるしく変遷していく社会の中で翻弄されながら生きている人々の心に、何かを問いかけてきた"証"だと言えるだろう。

 

『モモ』
ミヒャエル・エンデ 作/大島ゆかり 訳
岩波書店
880円(税込)