「今こそ歴史の知恵が必要だ!」


 新型コロナウィルスの流行開始から、1年が経過しようとしている。

 しかし、いまだ収束の予兆はなく、感染は日々拡大を続けており、世界中を不安に陥れている。

 まさに、"パンデミック"が発生しているのである。


 "パンデミック"とは、人類が有史以来経験してきた、「伝染病」の蔓延による混乱であり、それは、政治・社会・経済・・すなわち、「歴史」そのものに干渉し続けてきたものだ。本書が示すように、人類にとって最大の敵は「伝染病」である。


 逆にいえば、人類には「歴史」という武器がある。「伝染病」が巻き起こす混乱に対して、これまで体験してきた事象を紐解き、現在の状況と照らし合わせて、それを対策に生かす土壌を持っているのだ。


 日本の歴史もまた、「伝染病」との関係を切ることはできない。「疱瘡(天然痘)」「コレラ」「はしか」「結核」「スペイン風邪(インフルエンザ)」・・。いずれも、現在の状況について何かを示唆するような強烈な"パンデミック"を経験してきている。


 著者の磯田氏は、「伝染病」が引き起こした日本史の中における"パンデミック"について、様々な資料を紐解き、当時の社会情勢と照らし合わせながら、「伝染病」に対する行動のありようを提言している。特に、100年前に発生した「スペイン風邪(インフルエンザ)」についての、官民におけるそれぞれの状況は、現代に通じるものがある。


 「歴史は単なる過去の記録ではなく、日常生活でも生かせる教訓の宝庫である」


 文中にある磯田氏の言葉には、「歴史学者」の立場から、現代の"パンデミック"に敢然と相対しようとする、強い意志を感じるのである。


 


 

『感染症の日本史』
磯田 道史
文藝春秋
880円(税込)