時代小説の雄による
戦国武将のプロファイリング

今村翔吾といえば『塞王の盾』で直木賞を受賞した時代小説の雄。独特な歴史観と抜群のリーダビリティで読ませる作家だ。
今回ご紹介するのは、作家ならではの視座から戦国武将を「プロファイリング」した『戦国武将を推理する』である。

なぜ今村翔吾は『八本目の槍』で石田三成をあのように描いたのか。『じんかん』での松永久秀が一般的なイメージとかけ離れている理由とは何か。
言うまでもなく、今村翔吾は歴史学者ではない。それゆえに史料という軛から自由でいられるのだろう。歴史上の人物を取り巻く環境、言動、他の人物との関係性などから感情を読み取り、人物像を考察していく。
取り上げられているのは織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、武田信玄、上杉謙信、松永久秀、石田三成の8人。日本人なら誰もが知っている戦国時代のスーパースター達だ。
「織田信長はスティーブ・ジョブズに近い」「豊臣秀吉はコミュ力お化け」のように、歴史に疎い読者にも理解しやすいワード選びは流石。だが、選んだ8人のうち、やはり松永久秀だけがひときわ異彩を放っていると言えるのではないだろうか。北条早雲でも毛利元就でもなく松永久秀を選んだのは、相当な思い入れがあるからに違いない。

斎藤道三・宇喜多直家と並んで戦国の三大梟雄にも数えられる松永久秀は、一般に悪人としてのイメージが強い。主君筋である三好家を乗っ取り、将軍を暗殺し、東大寺大仏殿を焼き払った「三悪」がつとに有名だ。幾度も信長に背き、最期は茶器の名物・古天明平蜘蛛を手ずから砕き自害したといわれている。2020年の大河ドラマ『麒麟がくる』で吉田鋼太郎氏が演じた松永久秀などは、快男児ではあるものの一般的なイメージにかなり近かったのではないだろうか。
しかし、『じんかん』での久秀は、民を想い正義を貫く、清廉で人望厚い人物として描かれている。それは今村翔吾がプロファイリングの結果導きだした答えだったのだ。本書ではそこに至るまでの推理が語られている。

なお『じんかん』はこの4月に文庫化が控えている。信長の語りとして綴られ、幼少期を描く冒頭から胸が熱くなる展開やミスディレクション、伏線が散りばめられている。「三悪」についての正当な、あるいはやむにやまれぬ理由、信長に背く理由も描かれ、なぜこの物語を信長が語るのか、信長と久秀の関係性を合わせ、魂が揺さぶられることは必至の傑作だ。こちらも合わせて一読されたい。

戦国武将を推理する
今村翔吾/著
NHK出版
1,188円(税込)円(税込)